事例公開日:2025年10月22日
※ 事例記事の内容や所属は取材当時のものです。
産業用装置や医療機器の設計製造を手掛けている株式会社庄内クリエート工業では、Excelを中心に運用してきた実績管理や日報をはじめとした各種業務から得られるデータをリアルタイムに把握して経営判断に生かすための基盤づくりにkintoneを採用。Excelライクなインターフェースや経営判断に必要な情報の可視化、そして予実管理を実現するためのソリューションとして、krewシリーズを活用している。その経緯について、プロセスデザイン室 佐藤 州氏および同室 原田 知輝氏にお話を伺った。
課題
経営判断に生かすための情報の可視化が不十分
山形県に本社を構える装置メーカーとして、省力化や自動化に貢献する産業用装置や悪性腫瘍治療装置をはじめとした医療機器の設計製造を中心に事業を展開している株式会社庄内クリエート工業。設計から調達、部品加工、組み立て、出荷に至るまで、製品製造に必要な全ての工程を一貫して社内で手掛けており、顧客の要望に応じたオーダーメイドの機械を迅速かつ一貫したフローで作り上げることができることに強みを持っている。
そんな同社において、DX推進の役割を担っているのがプロセスデザイン室だ。プロセスデザイン室は情報システム部門としての役割を兼ねており、インフラから社内システムのデジタル化によるDX推進までその業務は幅広いのだが、DX推進のきっかけとなったのがコロナ禍による社会情勢の変化だったという。
「案件の状況や各種工程の進捗など、経営判断に必要な情報が集まってこないと当時新たに就任した社長から指摘を受けたのです。データに基づいて素早く経営判断ができる情報基盤の整備が求められました」と佐藤氏は当時を振り返る。
同社では案件管理の仕組みが導入されていたものの、見積作成や実績管理、工程管理などの各種業務がExcelを中心に行われていた。担当者それぞれが作成したExcelで管理していたためフォーマットが異なりそれらを迅速に集計して経営判断に生かすことが難しい状況だった。多数のExcelファイルを集約し手作業で集計する必要があり労力がかかっていた。

「現場の視点で記録を残すという点では、Excelによる運用でも問題なかったようですが、手書きで記録した作業工数を上長が集計する際に、Excelに転記したり、複数のExcelを集計して報告用の資料作成したりなど、管理職の負担が大きく膨らんでいたのです」と佐藤氏は説明する。
そこで情報をデータベースに集約してアクセスしやすい環境を実現できるソリューションとしてkintoneを検討。まずは日報アプリを作成し、徐々に生産時の情報を集約していく試みが始まったとのこと。しかし、従来と同じ情報では経営判断につなげていくには足りず、作業ごとに何分かかったのかなどさらに細かなデータを取得する必要が出てきたという。
「現場にはタブレットを支給してkintoneにデータを入力しやすい環境を整えたのですが、管理者は、作業単位で入力されたレコードを1つずつ展開して確認しなければならず、情報が増えた分だけ負担も大きかったのです」と佐藤氏は説明する。

選定
Excelライクなインターフェースの親和性と経営が期待する数字の見える化に役立つkrewシリーズ
そんな管理者の負担軽減につながる仕組みとして当初から念頭にあったのが、Excelライクなインターフェースで情報が確認できるkrewSheetだった。
「kintoneを導入する際に、Excelライクに使えるkrewSheetの存在は把握していました。多くのメンバーがExcelに慣れているだけに、いずれは導入したいと考えていたのです」と佐藤氏。
同室 原田氏も、「kintoneという新しいツールを現場に展開するような場面では、Excelと同じような画面のkrewSheetがあることでハレーションを起こすこともないと考えていました。とっつきやすいという意味でも、必要不可欠なプラグインだったのです」と語る。

また、当初目指していたのが、内部に蓄積された情報をリアルタイムに可視化して経営判断につなげるための環境づくりであり、アウトプットとしてのグラフ化も検討していた。
「kintoneのアプリ自体も最終的には見せるところを意識して作成しており、経営判断には何のデータが必要なのかを考えながら設計していました。結果として、krewDashboardもkrewSheetと同じタイミングで検討し、導入することにしたのです」と佐藤氏。
krewDashboardは多彩なグラフでデータを表現できるため、経営が期待する数字の可視化に応えられると判断したという。
こうしてkrewSheetとkrewDashboardでデータの視認性と可視化ができるようになった同社は、案件の予算と、原材料および工数などの実績を照合する予実管理の仕組みづくりに着手することになった。
「実績として仕入アプリから原材料費を、日報アプリから工数をそれぞれ取得し、案件管理アプリ内で管理されている予算と突合させて予実管理を行う仕組みを考えました。その際に、アプリ間の集計ができるkrewDataを検討しました。krewDataについては、以前から機能を知っていたのですが、経営判断に必要な情報を可視化する際に、複数アプリの情報をうまく抽出してkrewDashboardに受け渡すために最適なプラグインだと考えていました」と佐藤氏は力説する。
結果として、経営判断に欠かせない情報の見える化に向けた環境整備に、kintoneおよびkrewシリーズが採用されることになったのだ。
効果
工数削減と情報の可視化に役立つ、kintone活用に欠かせないkrewシリーズ
予実管理や資金繰りに役立つ情報をkrewDashboardにて可視化
現在は、実際に運用している50ほどのkintoneアプリを中心に、全社員80名弱のアカウントで運用されている。主なアプリとしては、案件管理をはじめ、仕入、日報、予実管理といったものになり、多くのアプリのインターフェースとしてkrewSheetが適用されている状況だ。これら主要アプリから予算と実績の情報をkrewDataにて集計したうえでkrewDashboardにて可視化している。krewDataの主なデータ編集フローは、全体の予実管理と部門ごとの予実管理が中心になる。なお、各アプリの役割が一目でわかるよう、データを使うアプリは紫、マスター系が緑、特定部署が使うものが黒といった、色分けされたアイコンを設定するなど、使い勝手を高める工夫を施している。それでは各アプリの役割を見ていこう。
日報
現場の作業メンバーはタブレットを経由してkintone標準でテーブルを追加し、案件管理アプリで付番された注文番号に沿ってレコードを作成、作業工程や内容、作業時間、不良チェックといった各種情報を記録していく。上長は、krewSheetにて一覧画面から日報情報を管理できるようになっている。また、誤って登録したレコードを削除する場合はシステム管理者に削除依頼するなど、情報の保全にも配慮している。

▲krewSheetを適用した日報アプリ。案件に紐づいた作業がいつ何時間行われたのかをひと目で確認できる
案件管理
案件全体の進捗を管理するアプリ。案件が発生した段階でレコードを作成し、受注確率や見積、製造、請求の状態を適宜krewSheetから記録している。見積アプリで作成した見積書を案件管理に展開することで予算として見ている。
「注文番号に対して、案件の進捗状況をこの案件管理アプリで管理し、プロジェクト担当が注文番号ごとに各ステータスを入力していきます」と原田氏は説明する。

▲krewSheetを適用した案件管理アプリ。案件ごとに見積りの状況や製造状態、売上金額を把握できる
仕入
ものづくりに必要な原材料からコピー用紙まで、会社として仕入れたものが全てkrewSheetで記録・管理されている。現場が購入申請アプリで仕入れの見積書を添付したうえで申請を行い、承認されたものを購買担当者が発注。発注状況や希望納期、納品予定のタイミングなどが一覧画面で管理できるようになっている。
krewDashboardで可視化している予実管理
過年度の情報が月ごとに詳細に把握できるようになっており、売上や予算、受注額、実績工数など、必要な情報から利益率が算出可能だ。また上長それぞれが見たいものをメニューやタブにて用意しており、必要な情報への迅速なアクセスが可能になっている。なお、Excelに慣れた経営層からの要請もあって、円グラフなどではなく数字の詳細が把握しやすいピボットテーブル形式にて表現している。

▲krewDashboardで全体の売上を可視化したもの

▲案件ごとの予実管理をピボットテーブルで表現。スライサーで見たい切り口を自由に設定できる

▲予実管理のkrewDataのデータ編集フロー図
経営向けの資金繰りアプリ
案件管理と仕入アプリのデータを突き合わせ、売掛・買掛の情報とともに入出金の状況をkrewDashboardにて可視化、銀行からの無駄な借り入れを最小限におさえることに成功している。
「正確な入出金情報は会計ソフト側で確認することが必要ですが、それは請求書が届いてからのわかるものなので、資金状況をリアルタイムに把握することは難しい。kintone側では大枠の数字が把握できるようになっており、経営側で即時性の高いキャッシュフローを可視化できるため好評です」と佐藤氏は説明する。

▲売掛と買掛を1画面で可視化することで、キャッシュフローを可視化
月に1500時間の工数削減を可能に、転記の負担軽減やデータ品質の向上に貢献
新たな環境を整備したことで、さまざまな効率化が進み、月の積算で1,500時間ほどの工数削減につながっていると評価する。
「これまでの予実管理では、上長が各部署のExcelを集めてきて資料作成を行うなどかなりの工数をかけていましたが、それがなくなっています。また、現場担当者が図面の裏に手書きで工数を記録し、それを上長がExcelで転記するという作業もなくなっています。かなりの工数削減につながっています」と佐藤氏は評価する。また、データの品質向上という面でも確実な効果が得られているという。
「krewSheetのおかげで、Excelが持つ自由度を残しながらデータ集計が可能になるなど、確実にデータの信頼性は高まっています」と評価する佐藤氏。
DX推進の立場としては、上長層がデータを見てアクションできるような環境づくりを目指しているが、「最近では上長からこんなデータが見たいという要望が出てくるなど、意識的にも変化が出てきていると実感しています。いずれは現場も含めたIT意識の醸成にも取り組んでいきたい」と佐藤氏。
原田氏も「日報のなかで従来取れていなかった情報も記録してもらえるようになり、今まで見えていなかったものが見えるようになったのは大きな変化です」と評価する。
krewSheetに関しては「Excelに慣れた人間が多いという我々の企業文化にマッチしており、編集するときの作業性に圧倒的な違いが出てきます。kintoneを使うなら必須で欲しいプラグインの1つ。krewDashboardについても自分が表現したい見せる化ができる点ではとても重要なツールとなっています」と佐藤氏は評価する。
原田氏は「アプリを簡単につなぎ合わせて活用できるkrewDataはとても便利なツールです。私自身はプログラム開発の経験がない非ITの人間ですが、導入当初はパートナーの協力を得てベースを構築してもらい、それを参考にしながらフロー設定などを行っています。必要なタイミングでkrewDataドリルなどで学んでいますが、とても有用なコンテンツがあるので助かっています」と語る。

可視化のさらなるニーズに応えながら、外部連携や現場へkintone醸成を進めていきたい
現在は予実管理を中心に経営層に向けて数字の可視化を行っているが、さらに詳細な情報についても可視化していきたいという。
「現場の動きなど可視化できる範囲は広がっていますが、今でも経営層からは新たな要望が次々に寄せられています。それらをどう進めていくのかも含めて対応を進めていきたい」と原田氏は意欲的に語る。
また、勤怠管理や工程管理などkintone以外のソリューションも外部で活用しているが、いずれはうまく連携させていきたいという。
「外部サービスの状況を見てkintoneを更新する機会もあるため、できればうまく連携させていきたい。もちろん、外部サービスをそのままkintoneに実装できれば理想的です」と佐藤氏。
すでに運用している予実管理についても、現在は部署から個人単位に落として評価の一つに加えて管理していけるような環境整備についても取り組んでいきたいという。データ集計についてもさらに省力化していけるようなアプローチを検討したいと佐藤氏は期待を寄せている。
現場への展開については、今はプロセスデザイン室が主体となってアプリ開発を進めており、できるだけ現場には生産活動に注力して生産高を上げていくという棲み分けができているが、佐藤氏個人の思いとしては、各部署にアプリ作成できる人材を育成して部署単位の改善スピードを向上させていきたいと今後について語っていただいた。