公開日:2025年11月12日
※ 事例記事の内容や所属は取材当時のものです。
わかめをはじめとする海藻関連製品の研究・開発・製造を中心に事業を展開している理研食品株式会社では、生産性向上に向けたデジタル活用のプロジェクトにおいて、内製化可能な業務基盤としてkintoneを活用、kintoneを使った予実管理のための集計、分析、可視化のソリューションとしてkrewシリーズを採用している。その経緯について、生産技術部 部長 小田部 貴司氏および生産技術部イノベーション推進グループ 鈴木 勝洋氏、同部 小松 永治氏にお話を伺った。
課題
生産性向上を第一義に考えた製造業のDX推進
持続可能な社会をスペシャリティな製品とサービスで支え、成長する会社になることを中長期ビジョンに掲げた理研ビタミン株式会社の100%子会社として、わかめをはじめとする海藻関連製品や調味料、エキスと呼ばれる抽出物の製造など、食品事業を中心にビジネスを拡大している理研食品株式会社。1965年に塩蔵わかめの草分けとなる「わかめちゃん®」を発売以降、「ふえるわかめちゃん®」「冷凍わかめ」など海藻文化の普及に取り組んでおり、メニュー提案や商品開発を推進する「ときめき海藻屋」ブランドや国内最大規模となる海藻類の陸上養殖施設「陸前高田ベース」を設立するなど、企業活動と地球環境との調和を目指した日本の海藻文化の発展に尽力している。
製造を中心に手掛ける同社において、生産性を重要な指標としてDXに取り組んでいるのがイノベーション推進グループだ。
「親会社(理研ビタミン株式会社)のDX推進部門とともに、会社全体のデジタル化に取り組んでいます。現場の課題解決と生産性向上の手段としてITやデジタルを推進する活動を中心に、経営と現場をうまくつなげていくような役割を担っているのがイノベーション推進グループです」と小田部氏は説明する。
同社では、工場全体の省人化や自動化を進めながら、バックオフィス業務のDX推進を含めたスマートファクトリーを目指している。製造現場についてはIoT、RPAなどさまざまなソリューションを駆使して電子化やデータ収集を図っている状況にあるが、バックオフィス業務については紙やExcelが中心だったため、クラウドサービスとして内製化が可能で、かつワークフローが実装できる新しい環境を模索することになった。
「もともと改善活動の文化が根付いていることから、バックオフィス業務の課題に対しても内製化を活発に進めていける基盤が必要でした」と小田部氏。

そこで目を付けたのが、親会社で利用していたkintoneだった。
「もともと、ワークフローなどの機能が実装されたオンプレミスのグループウェアを利用していましたが、リプレイスのタイミングで高額な費用が発生することが明らかになったのです。オンプレミスのサーバー管理は人材的にも負担が大きくなるので、自分たちで勉強すればアプリケーションも作成できるクラウドサービスを求めてkintoneに注目したのです」と鈴木氏は説明する。


選定
親会社で採用実績のあるkintone、ハンズオンで目にしたkrewシリーズに注目
実は、小田部氏は親会社から出向しており、親会社の 工場内の生産性向上に貢献する環境づくりとしてkintoneを採用した経緯があったため、その実績や使い勝手はよく理解していたという。
「バックオフィスは親会社と密接に連携しているため、同じプラットフォームで業務を行ったほうが全体最適を考えてみても成果が大きく得られるのではと考えたのです」と小田部氏。
そこで、kintoneの活用に向けてサイボウズが開催するハンズオンセミナーに参加。予実管理がテーマのセミナーで、予算と実績を突合する集計の自動化プロセスでkrewDataが紹介された。予実管理は生産性の向上に必須であるため、集計が自動化できるkrewDataは自社の環境に最も必要なプラグインの1つになると直感したという。
同じタイミングで、krewSheetやkrewDashboardの紹介を受けた。
「実はBIツールのような分析基盤も個別に検討していた時期でした。どこからデータを取得してどう活用するのかなど考えていたときにkrewシリーズを紹介いただきました。これならシステム部門に頼らなくても現場で使える分析アプリを内製できそうだと考えたのです」と鈴木氏。
そもそも生産性という観点では、得られたデータを可視化 ・分析することが重要だと考えていた小田部氏。
「複数のアプリを集約したうえでダッシュボードに表現するという、我々のやりたいことがkrewDataやkrewDashboardで実現できると考えたのです」。
結果として、スマートファクトリー実現に向けた生産性向上に資する環境整備に、kintoneおよびkrewシリーズが選ばれることになる。
効果
情報蓄積と分析基盤としてkintone+krewシリーズが活躍
krewDataでデータ収集や計算を実施、さまざまな指標をkrewDashboardにて可視化
現在は、従業員の7割 に当たる170名ほどがkintoneを活用しており、親会社とのコミュニケーションとして利用しているものも含めて、400ほどのアプリが作成されている状況だ。誰でもアプリを作成できるようハンズオンで研修を実施したうえで開発権限を現場に付与しており、すでに40名ほどがkintoneアプリの開発に携わった経験があるとのこと。
kintoneの使い方としては、理研ビタミングループとして用意されたポータルを経由し、同社用のスペースから業務に必要なアプリにアクセスできるようになっている。具体的には、総務関係の申請アプリやISO認証などに必要な文書管理系のアプリ、ワークフロー系のアプリ、そして品質保証に関連したヒヤリハット報告アプリ、製造部門や工場で利用されるアプリなどだ。また、稼働や売上、在庫、予実管理といった各種ダッシュボードが備わっている。製造実績など製造ラインで得られたデータは、電子帳票ツールのi-Reporterを経由してデータが投入され、kintone内に情報が蓄積される流れとなる。他の周辺システムとはCSVによる連携が中心だ。
krewシリーズについては複数のアプリからの情報をkrewDataで収集・加工・集計したうえで、krewDashboardで可視化するのが基本的な使い方だ。krewDataで作成されたフローはリアルタイム実行やスケジュール実行も含めて30ほど。krewDashboardについても多数の指標が可視化されたダッシュボードが用意されている。それでは具体的な活用例をいくつか見ていこう。
予実管理
設備投資予算アプリ、稟議書アプリ、物品購入申請、設備投資実績アプリをkrewDataで突合させ、部門ごとの設備投資や修繕物品に関連した予実管理をkrewDashboardで可視化している。画面に用意されたリンクからさらに詳しい情報をドリルダウンできるなど、BI的な活用が可能だ。
「以前は経理部門が手作業で予算と実績を突合させて予実管理の資料を作成していましたが、今は自動で出力できるようになっています。いつでも可視化できるため、リーダー層は自部門の予算執行状況が把握しやすくなっています」と小田部氏。

▲部門ごとの設備投資と修繕物品を予実集計したkrewDashboardの画面

▲投資設備の予実集計のデータ編集フロー図
生産調整会議用の資料
生産調整の会議において必要な資料をkrewシリーズで自動的に可視化。具体的には、親会社である理研ビタミンの販売計画や同社が持つ在庫数の推移をグラフ化して、生産計画を立てるための判断に利用。基幹システムからCSVでデータを取得しkintoneに投入したものをkrewDataで集計し、krewDashboardでダッシュボード化している。スライサーを活用し製品ごとにデータを切り替えられる。

▲計画、販売、在庫の推移データのダッシュボード、金額と数量がそれぞれ把握できる

▲計画、販売、在庫(金額ベース)の推移データのダッシュボード用のkrewDataデータ編集フロー図
kintoneとkrewシリーズで、1,400時間の圧縮作業時間で500万円弱のコストダウンを実現
生産性をテーマにDXを推進している同社だけに、RPAやロボットなどさまざまなソリューションを駆使して作業の圧縮によるコストダウン効果を詳細に指標化しているが、その1つにkintoneとkrewシリーズを軸にした取り組みがあり、およそ1,400時間の作業時間の圧縮で500万円弱のコストダウン効果が得られているという。
「kintoneとkrewシリーズの効果として大きいのが、リードタイムの圧縮効果です。製造拠点が複数あるため、従来の紙業務では申請書類の郵送などもあり、それがkintoneのワークフローで運用できるようになったことで、6万7000時間ほどの時間圧縮につながっています 」と小田部氏は高く評価する。


▲kintoneとkrewDashboardの導入によるDX推進で得られた成果までもダッシュボード化
予実のための資料づくりなどは自動化されたことで80%の工数削減につながり、ミスの撲滅や心理的なストレスの解消などにも役立っているという。
「会議前に資料がkintone上でできあがっているため、事前に閲覧しておくことで会議自体の生産性を高めることにも貢献しています。情報が可視化されたことでコミュニケーションも活発になるなど、数値化できない効果も少なくありません」と小田部氏。
krewシリーズについては、「kintoneは我々にマッチしたツールだと考えています。プログラミングの知識がなくても、ある程度データの編集や加工が容易にできるなどシステム開発のハードルを下げる効果がある」と鈴木氏。
小松氏は「私はよくkrewDashboardを利用していますが、各アプリの情報がシンプルに可視化でき、ドリルダウンやスライサー、タイムラインなどのUIで詳細情報を追いかけて分析できる。とても使い勝手の優れたプラグインだと実感しています」と評価する。


エネルギー関連情報の可視化や基幹システム連携などさらなる活用に期待
今後については、電力使用量以外にも製造現場から得られるエネルギーデータを収集し、基幹システムとのデータとマージさせてさらに可視化を進めていきたいという。
「これまでエネルギー関連の情報は、保全グループで月1回しかデータが取れていませんでしたが、今はリアルタイムな監視が可能な状況になっています。基幹システムのデータと連携させて製造あたりのエネルギー量となる原単位に落としこんで管理するといった使い方に取り組んでいきたい」と小松氏は意欲的に語る。
製造現場のさまざまなデータをkintoneで取り込みながら、krewDataでの集計およびkrewDashboardでの可視化を進め、現場へのフィードバックを目指すという。
生産管理システムなど基幹システムのオープン化も検討している 状況にあるそうで、
「基幹システムが刷新されれば、もっとシームレスに基幹システムとkintoneを連携させていけるはず。さまざまな情報の可視化や分析にも使っていきたい」と鈴木氏。
基幹システムにおけるトレーサビリティ関連業務については、一部kintoneで代替えできる部分もあると期待を寄せている。
理研食品はkintoneおよびkrewシリーズを使って現場の可視化を強力に進め、その先にある生産性の向上という成果を目指している。
「可視化していける領域はもっとあるはずで、最終的な生産性の向上に資する環境整備をこれからも続けていきたい」と今後について小田部氏に語っていただいた。


