導入事例
エコー電子工業株式会社
業種:
情報通信業
利用用途:
顧客管理、案件管理、予算管理、実績管理
使用製品:
krewSheet
※ 事例記事の内容や所属は取材当時のものです。
自分たちのCRMは自分たちで作る!
情報通信業の営業部員がkintone + krewSheetを活用して顧客管理システムを開発。脱Excelを果たし顧客への提案スキルも向上。
krewの導入支援パートナーでもある「エコー電子工業株式会社」は創業以来50年以上に渡り、九州の企業を支える地元密着型のICT企業。システム導入実績は2000社を超え、あらゆる業種・職種のソリューションを提供している。ICTを通じて顧客の業務効率化を支援しているエコー電子工業だが、自社の顧客管理はExcelに頼る状態で「灯台下暗し」だったとのこと。これに疑問を持った3人の営業部員が立ち上がり、自社の要件に合わせたCRM/SFA(顧客管理システム)をkintone+krewSheetで開発し脱Excelに成功している。
その顛末は、2018年3月に福岡で開催したkintone hiveで発表され、話題となった。脱Excelに至るには、krewSheetも貢献しているとのことで、ソリューション営業部の倉元氏と石井氏に詳しいお話を伺った。
【課題】
顧客管理システムが使われず、Excel運用がいつの間にか定着
製造業向け生産管理パッケージや運送業向けシステム、BIソリューション、勤怠管理、ペッパー向けアプリ開発支援など、幅広い業務のシステム導入を手がけるエコー電子工業は九州地方の大手ITベンダーとして50年以上の歴史を持つ。企業の歴史が長くなればなるほど、ビジネスの変化や組織改編があり、それに合わせて業務管理の方法も変わる。エコー電子工業もそのような変化の中、既存の顧客管理システムが次第に使われなくなり、いつの間にかExcelによる案件金額や進捗の管理が定着していたという。
「BIツールを顧客に提案しているとき、データの蓄積と分析が大切と説明するんですが、自分たちはできていないなと感じていました。これが、kintone hiveのセッションテーマになった『灯台下暗し』ということなんですけど」と倉元氏は言う。
収支報告の集計のために、毎週半日が削られていた
エコー電子工業の営業部では毎週1回、営業案件の収支報告を行い、上長に提出する。営業部が共有している案件管理用のExcelファイルから必要なデータを拾い出し、集計するのだがこの作業が2〜3時間。本業の営業活動時間外での作業である。
「今週はこの分類を顧客ランク別に集計してほしいとか要望はその都度変わりますし、商談にかかった時間もフリー項目欄に記載された文章から目視で抽出するといった感じで、商談ごとにバラバラで集計しやすいデータではなかったです。毎週2〜3時間はかかっていました」と石井氏。
その他にも、ランクや企業規模などで集計しづらかったり、共有しているExcelファイルが古いデータで上書きされてしまったりするなど、Excelファイルを複数人で管理する課題も多かったという。システム開発者を数多く擁しているのに社内システムの開発・運用が後回しになるのはITベンダーではよくある話ではあるが、この「灯台下暗し」を解消するため、倉元氏は石井氏、西野氏※とともに自分たち営業部で顧客管理システム(以下CRM)を開発することを決めた。
※ 西野氏は2018年4月に異動となり、本記事取材時にお話を聞くことはできませんでした。
【導入】
顧客への提案力を養うこともkintoneを選んだ理由の一つ
CRMのプラットフォームとしてkintoneを採用したのは、やはりノンプログラミングで使いやすく、親しみやすいところ。開発が専門ではないためカスタマイズはせず、kintoneの標準機能で賄えない要件がある場合はプラグインやkintone連携製品を利用することにしたとのこと。採用に関して興味深かったのは顧客に対する提案力を営業部員が養うための取り組みでもあったという点。
これについて倉元氏は「営業部員それぞれが得意となるソリューションを身に着けようというのが営業部門の全体方針なんです。サイボウズさんの製品、ウイングアークさんの製品といったいろんな商材をお客様に提案する中で、課題に対する機能の組み方をシステム・エンジニア(SE)に任せるのではなく営業が自分たちでアプリを作ったり解決策を示したりして、案件を進めていくというのを意識しています」と述べ、こう続けた。
「営業がそういうところに詳しいと、お客様との打ち合わせでも、この人はよく理解してくれているなと思ってもらえるので(開発者が入らなくても)スムーズに案件を進められるんですよね」
「Excelに戻すぞ」と言われた社内調整と機能の取捨選択
石井氏たちがkintoneで開発したCRMのコアアプリは「収支見込表」と「顧客マスタ」。Excelファイルで運用していた案件管理をアプリ化したもので2016年3月に稼働した。kintoneに集めたデータはDataSpiderで集計しMotionBoardでグラフ化している。
Excel管理時代は分類に使う値や取引先企業名が揺れていたことが原因で集計・分析がうまくできなかったため、「顧客マスタ」を作り、収支見込表から参照入力できるようにしたり、見込み確度をランク付けする「案件ランク」という項目を再定義したりするなどし、収支が正しく集計できる正確なデータを入力できるようにした。
特に「案件ランク」の再定義はとても大変な作業だったそうである。案件ランク項目はExcel時代にもあったものだが、営業担当者の感覚で入力されていたので同じような案件状況でも、ある人にとってはAランク、別の人から見ればBランクという状態。正確な分析にはつながっていなかった。そのために上司を含む営業部内への聞き取りや打ち合わせを繰り返し、人による誤差をなるべく少なくするために、ランク定義を入力時に補助テキストとして表示するようにした。
案件ランク項目はA、B、Cという値を選択できるようにすればよいだけであるが、実業務ではランク付けにより収支見込が大きく変わってしまう。それをなるべく少なくするため、現場へのヒアリングから「補助テキストの表示」というアプローチを見つけるのは顧客の課題解決に対する姿勢そのものと言える。
実際、倉元氏と石井氏は常に話し合いながらCRMのコアアプリに必要な項目や機能を取捨選択しているという。「項目のUIもいろいろあって、自由に入力できる方がいいのか、ラジオにするのか、ドロップダウンにするのかとか。我々は値を固定化したい。営業部員は自由に入力したい。じゃあどうする? みたいなことをいつも話しています。隣同士の席なんで」
社内の要件を聞き、調整を担当した石井氏はコアアプリの開発当時は入社2年目。倉元氏によれば「石井には、いろいろな仕事を覚えてほしいので(このシステム開発についての)上司や営業部内への調整はすべてやってもらっていました。時には「Excelに戻すぞ」と打ち負けて帰ってきたりしたこともありましたが、かなり勉強になったと思います」と当時を振り返る。
【効果】
営業部の基幹システムとして定着。さらに周辺業務に広がるkintone
コアアプリの稼働後CRMは次々と機能を拡張し、2016年5月には「予算設定アプリ」の追加による予実管理を、2017年には顧客分析のための「業種分類マスタ」や「セミナー集客管理アプリ」の追加による見込み顧客管理を実現。2018年9月現在では発注管理まで幅を広げ、今では営業部の基幹システムとしてすっかり定着している。
Excel管理時代に案件の集計に毎週3時間かかっていた作業は、ほぼリアルタイムでデータが視覚化されるようになった。「顧客目線」でしっかり設計されたコアアプリだからこそkintoneの柔軟性をフルに活かし、運用しながらどんどん実践的な機能を拡張しているエコー電子工業のCRMに、krewSheetはどのような役割を果たしているのだろうか。石井氏に聞いてみた。
アンテナを張りExcelのように入力できるソリューションをずっと探していた
「もともと営業はExcelの一覧上で自分の案件を管理していたので、コアアプリを稼働した後も一覧上でデータを見ています。でも、kintoneの一覧はExcelのようには入力できない。稼働後も、ずっとExcelのように入力したいという声があったんです。なので、kintone関連の情報に常にアンテナを張っていて、Excelっぽく入力できるソリューションやプラグインを探していました。krewSheetのニュース(2017年10月)を見たときには、すぐに使おうと思いました」
倉元氏も「石井がkrewSheetを見つけたときには驚きました。Excelとほとんど同じ操作で入力ができたり、フィルタリングができたりするのでこれだと思いました。」と述べる。
早速krewSheetを導入して「収支見込表」アプリなどの一覧にひっそりと追加。営業部の部会などでさり気なく、krewSheetの一覧を見せたところ、なにそれ?と評判になった。当初は標準の一覧とkrewSheetで作成した一覧を両方とも使えるようにしておき、どちらを使うのも自由だったが、今では、kintone標準の一覧で入力する担当者はほとんどいなくなったとのこと。kintoneの入力が苦手な人もkrewSheet導入後はスムーズにデータを入力してくれるようになり、データを無理なくkintoneに集められているという。
krewSheetの細かな機能が実業務のスピード感に対応
krewSheetによる業務改善効果はほかにもある。営業部では週に一度部会が開かれ、営業案件の進捗などについての情報共有を行っている。現在流動している案件について、いろいろな角度から検討するため、即席の集計が求められるという。ディスカッションの中で「あの条件に該当する案件の金額合計は?」という問いに答えるときなど、MotionBoardのグラフを確認するのでは間に合わないので、krewSheetで該当する条件のレコード(行)を選択して、表の下部に表示される合計値を確認しているという。そのほうが早く会議のスピード感に対応できるからだ。
さらに、2017年5月に稼働した「セミナー集客管理」では、エコー電子工業が開催するITセミナーに参加した人を管理し「収支見込表」のレコードからセミナーに出席した人をリード案件としてルックアップしている。セミナーの振り返りを求められた際にも、krewSheetの一覧表でセミナーごとの案件数などをすぐに集計できるとのこと。以前はExcelで集計していたため、「あのときのセミナーではどうだったの?」と聞かれても回答に時間がかかっていたという。
脱Excel成功の要因
Excelでの案件管理をやめ、kintoneの実運用に漕ぎ着けた倉元氏と石井氏はkintoneの利用を営業部内に定着させることと、CRM上のデータと乖離するような使い方のExcel管理を防ぐ努力を続けている。例えば、営業部の部会ではkintoneの受注一覧画面を全員で見ながら、セミナーの集客と収支について案件ごとに検討するという。検討中にデータの登録を促すこともできるので効果があるようだ。
また、kintoneのメッセージ機能でメンバーにメンションをつけてコメントを送ったり、モバイルで通知を表示したときでも案件の中身がわかるよう工夫をしたりなど、実務の中で常にkintoneにアクセスするよう促し、活用を意識付けている。このように日々啓蒙に努めていても、時々Excelでのデータ管理が発生してしまうことがあるという。
「顧客に環境の移行を促す対応があったんですが、それをExcelで管理しようとしたことがあって。『Excelで管理してもいいですけど、最新の顧客のランクとかはkintone側に入っているので、正しくないデータになりますよ』と言いました。kintoneにデータをためることは認識してもらっていますが、ふとした時にExcelの手軽さが出るんでしょうね。」と倉元氏。
その一方で、kintoneの活用促進を感じるアプリもあった。石井氏が部内の声を聞いてkrewSheetで作成したという「ただの表アプリ」である。「ただの表アプリ」は本当にただのExcelシートをkintone上に再現したもので、テキスト型の項目を複数列ならべただけ。営業部員がちょっとした情報共有をしたいときに、なんでも自由に書き込める。まさに、脱Excelを象徴するようなkrewSheetの活用であった。
石井氏と倉元氏はこれからもkintone CRMの管理を担当していくとのこと。次の展望としては、現在はExcelで別管理しているSEが入る案件もkintoneに取り込みたいとのこと。
最後に営業の提案力を向上させるという面から、kintoneで営業部の基幹システムを構築した経験について尋ねてみた。
「お客さんからCRMを構築したいという商談が出てくる時があります。商談そのものはkintoneの役目なんですが、kintoneでCRMを開発する上での考え方を、このプロジェクトで培ったものから説明すると、『そうやね』ってお客さんが納得してくれることがあります。kintoneを使った実践的なことをやっているかやっていないかでアプローチは全然ちがう。営業担当としてそこを経験する機会はほとんど無いので、そういう面でもkintoneはやりやすいと思う」と言う石井氏は、最後に「kintoneでのCRM案件はバッチリです」と付け加えてくれた。