事例公開日:2025年9月24日
※ 事例記事の内容や所属は取材当時のものです。
不動産売買の仲介および買取事業を手掛けるアドレス株式会社は、福島、宮城、茨城で「イエステーション」の看板で店舗を展開している。店舗数が増えるなか、不動産管理システムや進捗管理ツールなど複数のシステムを導入して業務管理を行っていたが、データに一貫性がなく状況把握のための集計業務が煩雑化していたため、kintoneを軸に業務基盤を整理。現場の利便性アップや予実管理、情報の可視化には、kintoneプラグインのkrewシリーズを導入した。その経緯について、マーケティング課 小林 涼香氏および伴走支援を手掛けている矢内 哲氏にお話を伺った。
課題
事業拡大に向けて属人的な運用からの脱却を目指す
1998年7月に福島県いわき市に創業し、現在は福島、宮城、茨城を中心に不動産売買仲介事業および一戸建ての分譲事業やリフォームといった買取再販事業を手掛けているアドレス株式会社。現在は20を超える店舗を展開しており、顧客の「売りタイ 買いタイ」をかなえる住まいの専門家イエステーションとして地域貢献を続け、多くの顧客から信頼を獲得している。また、デジタルツールを駆使してビジネスモデル変革を進めながら、新たな企業文化・風土を確立し、競争優位を築くためのDX戦略に基づいて、基盤のデジタル化を強力に推し進めている。
そんな同社では顧客管理や案件進捗などの業務に応じてさまざまなツールを駆使してきたが、情報を管理するツールが異なることで、物件情報や案件情報、見積、原価が途切れていて一貫しなかった。データを集計するにも転記が多く、抜け漏れや伝達し忘れなど情報管理の面で課題が顕在化していた。
「事業拡大に向けて店舗数を増やしていく過程で、統合された業務基盤がないことが事業を広げる際の課題となったのです。業務基盤の開発を外部にお願いしたこともありましたが、要件や仕様を決めるやり取りに多くの時間がかかってしまい、なかなか思うような運用になりませんでした。顧客情報と物件情報、案件情報が一元的に管理できるシステムを内製化できるような環境整備が求められたのです」と小林氏は当時を振り返る。

そこで、システムの専門家でなくてもアプリ作成が可能で、店舗数を増やしても情報がしっかり蓄積できる情報蓄積基盤としてkintoneを導入した同社。まずは社内での評価制度をアプリ化し、kintoneに触れることで社員に馴染んでもらい、その後さまざまなアプリを展開していったという。
現場に少しずつkintoneを浸透させていくなかで、建築部門からリフォームにおける見積りや請求を含めた売上管理の仕組みをkintoneでアプリ化したいという要望が寄せられた。kintoneアプリ作成の知識は増えていたが、見積りから請求書発行、請求管理といったしくみを小林氏が内製するのは難しく悩んでいたところ、同じ福島県にkintoneの伴走支援を中心とした活動を行っているkintone開発のエキスパートの矢内 哲氏がいることを知り、協力を求めたという。

選定
kintoneの利便性をさらに向上させる手段として注目したkrewシリーズ
矢内氏が支援に入り建築部門の売上管理の仕組みを協力して作り上げたことで、kintoneの知見や開発手法を習得した小林氏は、その後も矢内氏の協力を仰ぎながら様々な業務アプリを開発していった。krewシリーズはその過程の中で矢内氏から紹介されたという。
「現場の業務を楽にするには、krewSheetがあったほうが良いのではとないかとデモをお見せしてkrewSheetを提案しました」と矢内氏。
実は、kintone導入当初からExcelのような見た目でkintoneを使えないかという現場の要望はあったそうで、「kintoneの入力はレコードを1件ずつ開いて編集するのですが、現場ではこれが煩雑だったようでExcelのように一覧でコピー&ペーストできないかという声が多く寄せられていました。矢内さんから紹介を受けたkrewSheetであれば、こうした現場の要望を叶えることができて作業負担も減ると考えたのです」と小林氏。
krewDataの導入については、イエステーション本部に毎月提出するExcel帳票を作成する業務をkintone化する際に矢内氏が提案したとのこと。
イエステーション本部では、顧客からの反響数(問い合わせ数)や売上なども含めた情報をExcel帳票で管理しており、加盟店は店舗ごとに毎月本部にそのExcel帳票を提出する業務がある。もともとは手作業で情報を集めてExcelを作成していたのだが、店舗数が増えてくるに従って工数が大きくなっていったため、kintoneに入力されている情報を自動集約して提出用の帳票を出力する方法を模索。その際にkrewDataを使うことにした。
「データ加工できるプラグインはいくつかありますが、krewDataはノーコードで使えてデータ編集のプロセスを可視化できるために属人化しにくいと判断したのです」と矢内氏。
小林氏も「一部の業務でRPAを導入していたことがあるのですが、krewDataが持つデータ編集フローのイメージがそれと少し似ていましたので、抵抗なく使えそうだと考えたのです」と評価したという。
データの可視化については、kintoneにデータが蓄積されてきたところで、それらの情報を細かく分析してマーケティングに生かしたいというニーズが顕在化したためkrewDashboardを採用。
「もともとは、kintoneの標準のグラフ作成機能で情報を可視化していたのですが、データが溜まってくると、もっと詳しく状況を分析して状況を把握したいという声が上がってきました。そこで、1画面上に様々な切り口のグラフを表示できるkrewDashboardを導入することにしたのです」と小林氏。
結果として、業務基盤として活用するkintoneの利便性をさらに向上させるためのプラグインとして、krewシリーズが導入されることになったのだ。
効果
kintoneの利便性をさらに向上させるkrewシリーズ
情報メンテナンスやアプリ間集計、営業マネジメントにkrewシリーズを随所に活用
現在は、kintoneを業務の基幹システムに据え主要な30ほどのアプリを中心に運用しており、主要アプリに紐づいた枝葉アプリが各部署に展開されている。運用しているアプリは、物件マスタをはじめ、問い合わせ情報から商談を管理する売問合/買問合アプリ、物件に関する初期調査依頼アプリ、契約決済準備アプリ、歩合アプリなど、さまざまな業務をkintoneで管理できるようになっている。
また、外部システムともCSVを介してデータを連携させている。例えば、物件を外部の不動産検索サービスなどに掲載する場合は、サービスの掲載項目に合わせてkintoneからデータを抽出し、CSVで出力。それをそれぞれのサービスの管理画面からアップロードすることで複数媒体への登録が容易になっているという。
それでは、krewシリーズがどのようなアプリで活用されているのか具体的に見ていこう。
krewSheetの活用例:媒介報告書の作成業務を効率化
アドレスのコールセンターに物件管理の依頼が入ると、売問合アプリに新規案件としてレコードを作成し営業担当者を割り当てる。媒介契約が成立するまでの情報管理はこの売問合アプリで行っていく。媒介契約が成立すると物件情報を物件マスタに登録し、以後の物件管理業務は物件管理マスタを含む物件管理系のアプリに引き継がれるとのこと。物件管理アプリには、krewSheetが適用されており、業務に合わせた一覧が作られている。
例えば、不動産会社は売主に定期的に問い合わせ状況を報告する義務があり、アドレスではこれを媒介報告書という書類で行っているが、この報告書作成のための情報をkrewSheetで管理しているという。報告書は2週間に1回メールもしくは郵送で売り主に送るもので、営業担当は販売活動の内容をkrewSheet上で記入し、事務担当者は、報告書を作成した日付や送付日などを管理している。作成された媒介報告書のデータは帳票出力プラグインを使ってメール用・郵送用の帳票を生成し、売り主に送付しているとのこと。kintone と krewSheetを導入する前は、販売管理システムで1件ずつ情報を入力・更新していたため抜け・漏れも多く作成に時間がかかっていたそうだが、入力に不慣れな営業担当者でもミスせずに情報更新できるようになったと好評だ。

▲ krewSheetを適用した媒介報告書:営業担当者の入力画面

▲ krewSheetを適用した媒介報告書アプリ:事務担当者の入力画面
krewDataの活用例:店舗ごとの月別の売上や活動状況を自動集計
krewDataについては、店舗ごとの売上や利益、担当した営業の人数といった報告書を本部に提出するためのデータ集約で活用している。日報や売問合アプリ、物件マスタ、売上報告など各アプリに記録されている販売情報をスケジュール実行で毎晩集計しているそうだ。データ編集フローは複雑だが、krewDataのコメント機能でメモを残すことで属人化しないように工夫しているとのこと。
「データ編集フローの設定画面のなかにきちんとメモを残しておき、このフローがどんな処理をしているのか他のメンバーが見ても判断しやすいようにしています」と小林氏。

▲ 活動状況を集計している実際のkrewDataのデータ編集フロー図

▲ データ編集フロー図のアプリ関係概要
krewDashboardの活用例:kintoneに毎日蓄積されていくデータから様々な切り口の指標を可視化
krewDashboardは、査定アポ件数や粗利、案内・集客件数の担当者別売上など経営やマーケティング活動に必要な情報を可視化するために活用。情報は売・買問合アプリや売上報告アプリなどからkrewDataで取得・集計している。また、一括査定サイトなどの媒体に掲載した物件の反響などもダッシュボード化しているとのこと。媒体側のシステムから反響があったことを知らせるメールを受け取ると、kintoneに取り込まれるようにするなど自動化の工夫がされている。
「一括査定サイトなどの媒体からの反響数や委託数、アポイント取得数などをkrewDashboardで細かく見える化しています。エリア別の振り分けも含めて可視化することで、営業戦略の立案やマーケティング施策の検討などに役立てています」と小林氏。
krewDashboardで可視化された指標は、マネージャー層の週例会議でも利用されているほか、営業担当が個人の成績を把握し、営業活動のどのプロセスに課題があるかなどの考察にも使われているそうだ。

▲ krewDashboardを適用した媒体ごとの反響数

▲ krewDashboardを適用した媒体ごとの反響数
報告書作成の工数を半部以下に、営業力の強化にも役立つkrewシリーズ
kintone + krewを導入したことで新店の展開や買取事業の多店舗展開など活動エリアを拡充できたことで、企業全体の売上アップにつながっていると高く評価する。krewシリーズについては、数人ほどが手作業で行っていた媒介報告書の関連業務が、krewSheetによって一覧画面から簡単に情報更新できるなど業務そのものが大幅に自動化され、圧倒的に作業量を減らすことができたという。
「チェック漏れでクレームになることもなく、対応時間も大きく減らすことができています。おそらく人も作業時間も半分以下に減らせているはず」と小林氏は評価する。
またkrewDashboardによって営業活動や成績が容易に可視化できるようになり、プロジェクトとして営業力の底上げを、個人単位で実施できるようになっている。早期に営業力を強化するための施策に取り組んだ結果、実際に売上向上につながるなど、目にみえる効果が現れているわけだ。
「全員を一気にスキルアップさせることは難しくとも、誰に対してどんなアプローチをするべきなのかがデータから可視化できるように。個人の特性に応じて分かりやすく対処できるようになったと周りからも評判です」と小林氏。特に営業の質を高めていくためのサポートを、会社として実施できるようになったことは大きな効果の1つとなっている。
krewシリーズについては、伴走支援を手掛ける矢内氏が作成したフローやアプリをもとに作り方を学び、触りながらヘルプページにて確認するといったプロセスで使いこなしていった。
「krewSheetは直感的に触ることができますが、krewDataやkrewDashboardは慣れるまでに多少時間が必要でした。それでも、個人的にとても使いやすい」と小林氏。
なお、矢内氏に関しては「聞けばあらゆる情報が出てくる、まるで歩く事典みたいな人です。自分の知識だけでは出てこないようなアイデアを持っていますし、引き出しも豊富。いつも泣きついてしまうのですが、本当に助かっています」と高く評価する。

人材育成とともに、さらなる業務効率化に向けたアプリ開発を進めたい
現在はkintoneおよびkrewシリーズを使ってアプリ開発できるメンバーが少数のため、矢内氏が提供する基本研修やkrewDataのハンズオン研修などを受けている段階にある。
「kintoneおよびkrewシリーズで開発できるメンバーを育成していきたいと考えています。私の手が空けば、今でも転記している業務の自動化や見えていない情報の可視化など、さらに便利に活用できる範囲が増やせるはず」と小林氏は意欲的だ。特に売買事業の領域に関してはkrewDashboardでのグラフ化が進んでいるが、グループ会社が展開する賃貸事業に関しても営業マネジメントに役立つ可視化を進めていきたいと語る。
伴走支援を手掛ける矢内氏の協力も引き続きお願いしたいという。「賃貸で物件を管理しているアプリから請求情報を発行するアプリに展開し、会計処理と連携させたFB情報の消し込み処理や物件手数料を確定させるといった、複数のフロー設計に現在取り組んでもらっています。かなり複雑な処理ですが、賃貸業務における業務の自動化を実現させていきたい」と小林氏。不動産情報サイトなど外部のプラットフォームとの連携も強化していきながら、属人化しがちな領域についても効率化に取り組んでいきたいと今後について小林氏に語っていただいた。
この事例の導入支援パートナー

矢内 哲