事例公開日:2025年10月27日
※ 事例記事の内容や所属は取材当時のものです。
都市ガス・LPガス事業を中心にビジネスを展開している日本海ガス絆ホールディングス株式会社では、事業の多角化を進めるなかで既存事業の業務効率化およびデジタル化の推進に向けた業務基盤としてkintoneを活用、経営層へのkintone導入を後押しするためのプラグインとしてkrewDashboardを、現場での情報入力の負担を軽減する目的でkrewSheetを導入している。その経緯について、DX推進部 部長 松井義行氏、同部 佐々木 俊明氏および青木 恵子氏にお話を伺った。
課題
サブユーザーの情報含めて、営業日報や商談情報の管理基盤が必要に
1942年に日本海瓦斯株式会社として創業し、現在は都市ガスとLPガスの供給・販売といったエネルギー事業を中心に生活やビジネスに関わるさまざまな領域で事業を展開している日本海ガス絆ホールディングス株式会社。地域に密着したエネルギー企業グループとして、ガスのある快適な暮らしを届けるガス事業を中核に、空調機器や建設設備、情報・通信設備事などを扱うインフラ事業、エネルギーマネジメントをはじめとした総合エネルギー事業、保険や不動産、飲食店など生活に欠かせないサービスを提供するトータルライフ事業などを展開。2030年でのグループの目指すべき姿を示した「NEXT Vision」実現に向けて、グループ経営体制の構築や収益安定、グループ全体のDXおよび業務効率化の推進を重点課題とした2025グループ中期経営計画を強力に推進している。
特に2030年には都市ガスおよびLPガス事業以外での連結売上高構成比率50%を目指す同グループでは、目標達成に向けて既存事業のさらなる効率化・デジタル化によってリソースを確保し、新たな事業に注力することが求められていたと松井氏は語る。
「経営層から示された目標達成に向けて、デジタル技術を駆使した業務効率化のためのDX推進が求められました。また、現場においても日々の営業活動の可視化や、顧客情報の整備といった課題が顕在化していたのです」。
なかでも、営業部門ではハウスメーカーや施主(いわゆる「サブユーザー」)といった、直接の契約者ではないもののガス導入の意思決定に関わる重要なステークホルダーの情報が十分に管理されておらず、商談履歴も含めて紙やExcelを中心とした属人的な管理にとどまっていた。

「ガス事業以外の領域を拡大させていくためには、施主やハウスメーカーなどの情報が重要です。お客さま(ガス利用契約者)の管理や料金計算などを行うガス事業の基幹システムのリプレースを試みた時に、サブユーザーの管理機能も作り込んでみましたが、当時はうまく機能しませんでした」と松井氏。特にマスター連携がうまく機能しておらず、情報を蓄積するための単なるキャビネットのようなものになっていたと当時を振り返る。
新たな環境づくりでは営業日報や商談情報が管理できる仕組みを検討。そこで目をつけたのが、以前社内の業務改善でトライアルしたノーコードツールのkintoneだった。
「実は、10年ほど前に基幹システムの刷新を検討した際に、サブユーザーも含めた案件管理もできるようにしたのですが、複雑な顧客関係を一元的に管理することが難しく、メモ書きレベルに留まってしまいました。その後もずっとCRMやSFAの様々なソリューションを試し続けましたがコスト面での課題もあって、なかなか本格的な導入に至らなかったのです」と松井氏。
そんなおり、以前トライアルしたkintoneを思い出し、現場でもアプリを開発できる利便性の高さとともに、コストパーフォマンスに優れている点を高く評価し、kintoneでの環境整備を決断したという。

選定
経営層を満足させるレポート画面を作り上げる武器となるkrewDashboard
kintone導入により、基幹システムから顧客情報やガス機器の情報をCSVで取得後、RPAでkintoneに取り込んで業務管理に必要なアプリに利用するサブシステムをノーコードで開発できるようになり、顧客管理や商談情報管理などのアプリ開発を進めたものの、経営層に対して解決しなければならない課題があったという。
「kintone単体では、他のSFA製品などで見られる多彩なグラフやチャートをふんだんに使ったレポートが表現できず、経営層にその魅力がなかなか伝わりませんでした」と松井氏。
選定途中に各種のSFAツールが持つダッシュボード画面を見てきた経営層からは、分析機能やグラフ・チャート種類が十分でないことを指摘されたのだ。そこで注目したのが、経営層が求めるレポート画面を提供できるkrewDashboardだった。
「柔軟性の高いkintoneに多彩なダッシュボード機能を補完し、経営層からのコミットメントを得るための決定的な武器となると考えたのがkrewDashboardでした」と松井氏は説明する。
krewDashboardについては、当初は複数のグラフを1画面に並べるkintoneプラグインという印象を持っていた佐々木氏だが、「調査する過程で、フィルター機能をはじめ、多彩な集計方法、グラフからのドリルスルー機能など、現場が求めていた動的なデータ分析機能が充実していることが分かったのです。これなら、経営層にも納得してもらえると考えました」と当時を振り返る。
また、kintoneがグループに広がっていくなかで、入力する情報が徐々に増えていき、利用者から入力の手間に対する声が寄せられることに。そこで白羽の矢が立ったのがkrewSheetだった。
「Excelからの脱却を目指してkintoneを便利に使っていましたが、使うほどに入力項目が増えることで業務負荷も増していったのです。1周回ってExcelライクなkrewSheetに戻ることになったわけです」と松井氏は笑う。
こうしてkintoneをもっと使って欲しいという管理者に対して、入力の時間が追いつかないという現場の課題に応えるためのツールとして、krewSheetが選択されたわけだ。
「他のプラグインも含めて検討したのですが、一覧画面から情報編集しやすく、従来のExcelのような見せ方や使い勝手が踏襲できるものとしてkrewSheetが最適でした」と佐々木氏。

結果として、kintoneの有用性を経営層に示すためのダッシュボードとしてkrewDashboardが、入力の負担を軽減して積極的にkintone活用してもらうためのプラグインとしてkrewSheetが選ばれたのだ。

▲kintone + krew の導入によりサブシステムをノーコードで内製できる基盤を確立
効果
kintoneを現場に根付かせるための武器となるkrewシリーズ
グループ5社でkintoneを活用、DX推進部が中心にアプリ開発を展開
現在は、同社含めてグループ5社でkintoneを運用しており、250ほどのライセンスで運用している。SFAやkintoneの研修・学習といったグループ全体で利用するスペースから、企業と部署、そして当直といった用途別それぞれ30ほどのスペースを展開しており、営業支援や商談管理などの営業部門で主に利用するアプリとともに、受託業務や機器販売業務などの販売管理アプリなど、試験的なものも含めて560ほどのアプリが作成されている。また、RPAやAI-OCRなど自動化ツール駆使して省力化を進めている。
開発体制については、当初からDX推進部が現場部門とスクラムを組んで現場の業務改善に貢献するアプリ開発を進めている。営業部門から展開することで手応えを感じてもらったうえでグループ展開を進め、グループ会社が利用する販売管理システムという大掛かりな仕掛けにまでkintoneの領域を広げている状況だ。
krewDashboardで作成された強力なダッシュボードが業務の中心に
krewDashboardの活用例としては、グループ会社の1つである株式会社モット日本海ガスが利用している販売管理アプリで、日本海ガスからの受託案件管理のアプリと同社独自で機器販売を行う際の販売管理アプリを運用している。
「これらの情報を可視化するためのダッシュボードを用意しています。商談ダッシュボードでは、販売カテゴリごとの売上金額や担当者別の商談件数などを可視化しており、さらに仕入原価や粗利額なども詳細に把握できます。ドリルダウンしてグラフの詳細を確認、分析できるようなダッシュボードとなっています」と青木氏は説明する。




さらに現場への可視化も徹底している。「充実した機能を持つkrewDashboardのおかげで、今は予実管理も含めてダッシュボード画面で可視化し、受託と機器販売それぞれで、店舗別の予算と実績の状況を各店舗に設置した画面にデジタルサイネージを表示させています」と松井氏。管理職が詳細な情報を把握する際には、クロス集計された画面にて確認することもできるようになっている。
「上層部から社員の時間の使い方を分析したいというオーダーに応えるべく、作業ごとにかかる工数を社員別に把握できるようなダッシュボードも用意しています。要望に応じてダッシュボードを数多く用意している状況です」と青木氏。事務担当者やスタッフも、受託案件の種類や金額などがダッシュボードで可視化でき、毎月の請求額を事前に把握する場面で利用されている。


▲店舗のモニターに表示されている実際の映像
他にも、日本海ガスの営業部門が利用しているサブユーザー向けのSFAアプリの情報を可視化するダッシュボードもkrewDashboardにて用意。「1つの画面で訪問件数をはじめとした商談情報が可視化できるように作成しています。また、別途担当者別やチームごとに確認したい情報をクリック1つで出せるようにしています」と佐々木氏。
特に上層部のkintoneに対する懸念を払拭したのが、顧客や販売するものが異なる2つのグループを同一画面に並べ、同じレベルで比較できるようにしたダッシュボードだ。
「目標額や案件規模が大きく異なる2つのグループであっても、その達成状況を同レベルで見せることができたことで、上層部が抱いていたkintoneに対する評価を大きく変え、魅力的なツールに感じてもらうことができました」と松井氏は高く評価する。


krewSheetについては、部署横断型のアプリとして見込み顧客に対して工事の状況を一覧で確認できる現場管理依頼書アプリがある。色分けされたセルやフィルターなどを駆使しながら、担当者別に案件ごとの工事状況が入力できる。
「ダッシュボード画面は営業担当者が主に見ますが、施工担当者に対しては案件ごとにレコード化されたものをkrewSheetにて表示し、直接入力できるだけでなく、日付で選択するなど情報入力しやすく設計しています」と佐々木氏は説明する。
2,000時間を超える残業時間削減に貢献、krewシリーズがkintone利用を加速させる
kintoneおよびkrewシリーズを活用して業務改善のための基盤整備に取り組んだ結果、販売管理アプリを運用しているモット日本海ガスでは、紙からExcelへの転記作業がなくなり、例えば作業日報アプリを自動的に集計して会議用資料作成の負担がなくなるなど、2000時間を超える残業時間の削減につながったという。また、krewDashboardのおかげでkintone活用の活性化につながっており、適用してから半年の間にユーザー数は2倍に増えているという。
「Excelによる数字の分析に馴染んでいたメンバーにkintoneを使ってもらうために、krewDashboardが大きく役立っています。Excelのスライサーは使っていなくとも、krewDashboardのスライサーは間違いなく使っており、部署別の数を並べて上手に可視化できるなど、Excelの表現力を超えていると評価も上々です」と松井氏。
アプリ開発のリードタイムも圧倒的に短縮できている。
「例えば機器販売のリアルタイムな状況を集計するものが欲しいという依頼があった際には、簡単な打ち合わせをして30分程度でダッシュボードを作成し、早速夕方に開催されたチーム会議で活用したといった例もあるほどです」と青木氏は評価する。
今では、krewDashboardで情報を可視化することが当たり前になっているという。
「昔は似たようなExcelがどんどん出来上がってしまうという状況でしたが、今は1つのダッシュボードが現場の声を受けて進化していくサイクルができていて情報が分散しませんし、より使い勝手のいいものを作り上げていける点は大きな効果だと考えています」と佐々木氏は評価。事前に用意したドキュメントだけで必要なダッシュボード画面を現場自らkrewDashboardで作り上げるといったケースもあるなど、ITを学ぶ基盤としても重宝しているという。
グループ内でも活用の粒度が異なっており、1つの成功事例をグループ全体に波及する役目もkrewDashboardが果たしている。
「使い込んでいる規模の小さなグループ会社の文化が、規模の大きなグループ会社に波及し始めています。まさにグループ全体でのデジタル化推進の底上げに大きく役立っていると言えるでしょう」と松井氏の評価も高い。
入力項目の多い購買部門に対しては、入力の負担が大きくkintoneから離脱しかけたことも。入力しやすいkrewSheetのおかげで、再び購買部門をkintoneに戻すことができたというエピソードがあるほどだ。

原価管理やAI活用など、kintoneとkrewシリーズの適用範囲を広げたい
現状は販売管理を中心にkintoneアプリを展開しているが、新たな試みとして原価管理の仕組みづくりに挑戦している段階にあるという。また、SFAの機能を拡充させてフロントの受付システムとしてより磨きをかけていきたいと松井氏は意欲的だ。
「現場のプロジェクト管理として外部の業者と共有する別のツールを導入していますが、この前後の機能はkintoneやkrewシリーズで作り込んでいます。いずれ外部の取引先とのコミュニケーションにも展開できるといいですね」。さらに、AI活用についても意識している部分だ。「中期経営計画のなかで営業部門にAIを取り入れて営業の高度化を進めることが示されています。蓄積されたデータを活用し、AIで営業メンバーを支援していきたい」と青木氏は期待を寄せている。
基幹システムとの連携については、現状はkintoneにデータを取り込むことが中心だが、いずれはkintoneから基幹システムにデータを投入することも視野に入れている。
「使い勝手のいいkintoneに入力した情報を、RPAなどを使って基幹システムに戻す処理も進めていきたい」と青木氏。さらに、現在は基幹システムを拡張することで各種帳票をグループ全体に提供しているが、kintone側に情報を持ってきてkrewDashboardにてダッシュボード化するなど、基幹システムから帳票部分を削ぎ取っていきたいという。
「基幹システムをkintoneにすぐに置き換えるということは難しいものの、何世代か後には挑戦していきたい」と今後について松井氏に語っていただいた。


